通常の登記は一般的には本登記と呼ばれます。本登記にはさまざまな効力がありますが、その中でも最も重要な効力は対抗力です。私人と私人の間で取引があり、そのために不動産に関する権利関係に変動が生じても、それを主張できるのは原則として当事者間だけです。しかし、その変動を登記しておけば、広く第三者に対してもその権利関係の変動を主張することができます。このことを「対抗することができる」といい、登記の持つこのような効力を「対抗力」といいます。典型的な例としては、AがBと土地の売買契約を結び、その後にAがCにもその土地を売却してしまったとします。まだ、所有権の登記名義がAのままだと、BもCもお互いにAから所有権を譲られたことを主張することはできません。土地の所有権を対抗できるのは、先にAから所有権移転の登記を受けた者です。結局、登記の世界では先に登記された方が優先するのが原則なのです。ただ、場合によってはどうしてもすぐに登記を申請することができないこともあります。登記申請に添付すべき情報がそろわない場合や契約上の条件がまだ満たされず、当事者の間でも所有権が移転していないという状態もあり得ます。このように手続き的または実態的に、登記を申請するための要件が整っていないと、登記の順番を早くしようとしても実際の申請はできません。
そこで、登記法では、そのような場合でもとりあえず順番だけは確保することができるように「仮登記」という制度を設けました。仮登記の申請がなされると登記記録にその記録がなされます。そして、その後に手続き的または実態的に不足していた要件が整った時点で「本登記」に改める申請をすると登記記録の仮登記が本登記に改められます。ただ、仮登記それ自体には対抗力はみとめられていません。ですから、前に述べました事例でAB間の売買の仮登記がなされた後でAC間の売買の本登記がなされた場合では、本登記はCが先でもBは所有権をCに対抗することができます。が、Aが土地をさらにDにも売却した場合には、Bの登記が仮登記である間はDに対して土地の所有権を対抗できるのはCということになるのです。このような事例は稀かもしれませんが、すぐに本登記の申請ができない場合には仮登記の制度を利用して、とりあえず順番は確保しておく方が良いと思われます。